015 股旅社中 岡山~鳥取ツアー [佐保建設・ウエノイエ]

 

二つの工務店を巡る初の中国地方横断ツアー

股旅社中の会員工務店、佐保建設とウエノイエの合同企画で、2社を巡るツアーが行われました。
佐保建設の所在地は、岡山県美作(みまさか)地域の勝央町(しょうおうちょう)。五月人形のモデルとなった金太郎こと坂田金時終焉の地として知られ、 かつては出雲往来の宿場町としてにぎわった町。
ウエノイエは鳥取県米子市の工務店。山陰地方のほぼ中央に位置する米子は昔から商業都市として栄え、山陰最大の温泉である皆生(かいけ)温泉は、 日本のトライアスロン発祥の地としても有名。
今回の参加者約30名のうち、両社を訪ねるのは初めてというメンバーも多く、期待がふくらむツアーとなりました。


佐保建設の家づくり・めしづくり・会社づくり

ツアー1日目は佐保建設。スタッフ総勢で用意してくれた「さほめし」で迎えてもらいました。さほめしとは、スタッフが自らつくるまかないランチのことで、 スタッフ間のコミュニケーションと、実際にキッチンに立つことでお客様への提案力を高めるために月に2回ほど行われています。 この日は、約30人前のお弁当と、名物ホルモン焼きうどんを用意してくれました。準備の手際、メニュー内容、盛り付け、料理の味など、 「さほめし」をいただくことで、佐保建設の家づくりが見えてくるようです。

これまで会員の工務店を訪ねるというのは、施工した住宅や建設途中の現場、あるいはオリジナル家具開発のワークショップの様子を見学するのが主な内容でしたが、 佐保建設代表の佐藤尚紀は、ここ数年にわたって業態改革に邁進してきた会社づくりそのものをプレゼンテーションしてくれました。 それは、生産性、効率、収益といった家づくりの工業的な側面からの方法論とは真逆ともいえるアプローチ。 「くらしづくり」に通じる手づくりの豊かな家づくりをどのように実践してきたかという悪戦苦闘、奮闘努力のありのままを見せてもらいました。
通り一遍の業務紹介など聞いてもつまらないものですが、そんなことまで話していいの!? と思ってしまうほどの内容をゲストと佐保スタッフ全員の前で披露。 参加者はその話に引き込まれます。佐保建設の気迫が伝わってきました。
この話の後、引き渡し間近の施工現場を見学したとき、家づくりとめしづくりと会社づくりがぴったり重なっていることを感じました。 仲間内のことをながら、佐保建設はかなりのレベルだと思いますが、佐藤は「まだまだです」と、謙遜ではなく謙虚に捉えています。
佐保建設は股旅社中に入会する以前からベガハウスと交流があり、ベガハウスの家づくりを学びながら業態改革の取り組みを始めたということです。 ベガハウスの代表・八幡秀樹は、今回の佐保建設のプレゼンテーションを聞いて、「こんちくしょー!」と嬉しそうに讃えました。
指南をほどこした相手から刺激を受けるようになった。仲間の成長を喜ぶ気持ちと、「負けていられない!」という気持ちが合わさって表れ たのだと思います。 他の参加者も八幡と同様に、佐藤の話に感銘と刺激を受けていたことは間違いありません。股旅社中の相互鍛錬の一面です。



お客様と建てる・風土を読む・ウエノイエの家

ツアー2日目はウエノイエの家の見学です。
ウエノイエの代表・上野栄治は、先代の社長である父親が他界し、30代半ばで急遽ウエノイエを引き継ぎました。 大学で建築を学び、卒業後は建材・住宅設備・家具の総合メーカーに勤務していました。 ハウスメーカーやビルダーとの交流があり、インテリアの先端情報などにも詳しいということもありましたが、大いに悩んだ末に地元米子に戻って会社を引き継ぐ決意をしたということです。
また、上野の家づくり原点は、幼少の頃にお客様を訪問する父親に同行することが日々の日課になっていたこと。 お客様から信頼され、お客様と会話をする父親の姿が、いまもウエノイエの指針になっているようです。
この日見学した完成間近の家について上野の説明を聞いていると、米子の風土とお客様の話に真剣に向き合っていることが感じられました。
「無理をせず、背伸びもせず、コツコツと豊かなくらしをつくることを大切に」とコンセプトをかかげていますが、地味なようでいてとても高尚で本質的、 そして実践することはかなり高度なことだと思いますが、この家にはそのコンセプトが確かに息づいています。 目新しい付加価値を飾って他者に先んずるようにすれば目先の利益は得やすいでしょうが、そういうモノは本質を欠き長くは持たないということになりますが、ウエノイエの姿勢はまったく対照的です。
もう1件見せてもらったのは、お客様がすでに住まわれている家です。お客様の趣味を全面的に反映したインテリアは、 家中にエイジングが施されたかのような雰囲気で、レトロな器具や建具がさまざまに使われています。 お客様のアイデアが満載ですが、いいなりにつくるのではなく、話をよく聞いてウエノイエの作法と整合させることでプランもデザインも破綻のない空間に仕上げているのだと思います。
この家の住まい手は、私たちが訪ねる直前まで家にいて外出されたとのこと。キッチンに置かれていた飲み終わったコーヒーカップはまだ温かく、 お客様が暮らしているままの家だということがリアルに感じられます。ウエノイエとの深い信頼関係があるからこそ、このように見学させてもらうことができるのだと感心しました。
お客様とのコミュニケーションを深め、風土と暮らしを読み解いて建てる家。ウエノイエの家は、住む人とウエノイエに長く守らる米子の家なのだと感じました。