008 床座を楽しむ日本人の幸せ [ベガハウス+境木工:箱火鉢・箱膳 第2話]


火鉢が特別な時間の中心になる 一人で愉しむ 誰かと楽しむ

第1話で紹介したように、ベガハウスの八幡の着想から始まった箱火鉢・箱膳づくりは、
デザイナーの村澤と境木工との連携により、何回かの試作検証を重ねて完成に至りました。
畳リビングや小さな和室にはもちろん、フローリングにも似合います。
炭火で沸かした茶の湯や燗酒、炙った干物や餅は心の贅沢が味わえます。
茶室が小宇宙と説かれることがありますが、炭火を目の前にして、
空気の流れや光のゆらぎを感じながら過ごす時間は、日常の中でも特別なひと時となります。

座卓のように、場の真ん中に置いておくこともできるし、使わないときは壁際や部屋の片隅に置いておけます。
木工芸の技術でつくるモダンデザインの工芸家具は、インテリアのアクセントになります。
シンプルな形状だからじゃまにもなりません。
ちゃぶ台や行灯や衝立といった日本の生活文化から生まれた家具と通じるものがあります。


煙や煤が出ないよう、炭には少し気をくばる必要があります。国産の備長炭か、欅や楢の黒炭が向いているといわれています。
そんなことに興味を向けると、炭焼きのことを調べて日本の里山事情に触れたり、
森林資源の持続性や循環型社会といったことがより身近なことに感じられるようになります。

わが家にいて、炭火を起こし、暖をとり、湯を沸かし、ときどき里山や森のことを脳裏に描く。
日常に豊かな時間が生まれ、訪れた友が喜んでもらうもてなしの場にもなる。
わが家と暮らしへの愛情がふんわり膨らむ。必需品ではないからこそ、使い方次第で物語が広がっていく道具です。

箪笥づくり100年の技術で新しいものづくりにチャレンジ

箱火鉢・箱膳の製作を担った境木工は、明治に創業し110年以上の歴史を持つ福岡県大川市の箱物メーカーです。
この伝統技術を生かした同社を代表する製品シリーズが「吉野クラフト」という民芸箪笥です。
本体と引き出しは、ネジやレールなどの金物を一切使わず、木組みの技術で組み上げられます。
この技とノウハウが、箱火鉢・箱膳の製作に生かされています。

股旅社中のメンバー全社で、境木工の工場を見学しました。箱物家具は、ただの四角い箱ではありません。
家具としての機能と耐久性、室内に置かれたときの佇まいを持たせるためには、
設計製造のノウハウ、専門的な技術、加工精度などが要求されます。
さすが箱は箱屋とメンバーたちは感心し、箱物家具に関する興味と見識を深めました。

もともと境木工はデザイナーの村澤と新しいブランディングを見据え、
「吉野クラフト」の技術をベースにしたモダンデザインの新シリーズ「ハコモダン」の製品開発を行っていました。
新しいものづくりに対して積極的で、伝統を大切しながら新しい考え方やものの見方を柔軟に取り入れる境木工の気質は、
股旅社中の理念や股旅ワークショップのあり方と共通することが多かったのだと思います。

伝統の箱物家具の技術を住宅に生かそうとする取り組みは、メーカーにとってもビルダーにとっても、
いままで経験がない新しいことへの取り組みです。ビルダーだけではできない、メーカーだけでは生まれない、
そんなものづくりを共有し高め合おうとする姿勢が感じられる工場見学でした。