014 股旅社中デザイン競技会2018 だれに届けたいのか なにを伝えたいのか

 


競技会後の取り組みに真価がある

股旅社中の会員工務店10社が、それぞれ選抜メンバーを社内選考してデザインを競い合う「股旅社中デザイン競技会2018」が開催されました。 会員ビルダー10社から選抜チーム各1組が選出され、合計10組が「親子で使う家具・道具・造作(硬質フェルトを使用)」を発表。先の速報に記したとおり、会場の全員による投票を参考にしながら審査員の協議により審査が行われ、野沢工務店・野澤裕が最優秀デザインに選ばれました。

総評と審査基準〈ムラサワデザイン 村澤一晃〉
今回の競技会は、素材を限定したことで難易度が上がりましたが、その分みなさんの参加意欲も高く、事前の準備検討にかけたエネルギーを感じることができました。通常の業務にすぐには反映しない思考での取り組みだったと思いますが、 それぞれの工務店としての、また、取り組んだスタッフの視点が明確になった作品が多く、とてもいい競技会になりました。
ありがとうございます。
1点を最優秀として選ぶのが困難でしたが、以下の手順で審査を行ったことをお伝えします。
:参加者投票の集計を元に、1次順位を確認。
:審査員の自由な視点で投票を行い、2次順位を確認。
:この段階から議論を行い、最終投票と協議により最優秀賞を決定。
すべての案にいえることですが、少しのステップアップでプロダクトとしての説得力が上がり、現実的な精品として提案が可能になります。
講評の席でもお伝えしていますが、競技会がゴールでなく、ここから諦めないで完成を目指す取り組みが何よりも重要です。
競技会の提案に関しては、いつでも相談を受けますので遠慮なくご連絡ください。
これからは誰が一番先に「完成品」としてのゴールに飛び込むのかを楽しみにしています。

審査の際に基準にしたこと
今回の提案関して、大きく2つの属性に分けて考えました。
一つは「住宅との接点を意識した提案」です。
イシハラスタイル、三友工務店、丸晴工務店、野沢工務店の案が該当します。
もう一つは「置き家具的に独立したアイテムとしての提案」です。
沖田、創建舎、ベガハウス、ウエノイエ、佐保建設、大瀧建築の6社がこの案でした。
その上で、今回のテーマである「親子」と「硬質フェルト」をどのように解釈し、個々の問題点として認識し、解決方法を提示したか。
これらを複合的に検証し、審査の判断基準としました。


審査結果と発表者

技会は最優秀デザイン1点を選出することになっていましたが、第2回となる今年は接戦となり審査員の協議は侃侃諤諤でした。
そのため、最優秀デザイン賞のほかに、最後まで最優秀デザインと競った4作品を特別賞として讃えました。

最優秀デザイン
作品名  p-cube(ピー・キューブ)
発表者  野沢工務店 野澤裕
概要  3cm角の立方体に加工したいくつもの硬質フェルトと木製フレーム。
積み木感覚で立方体をフレーム内に収め、
色・模様違いの面の配列によって描かれるモザイク模様を楽しむ玩具。
寸評  「住宅は窓も大事だけど、これからは壁面に絵を飾ることも大事にして欲しい。」
というメッセージがとても強く印象に残った。素材の色と質感を丁寧に検証し、
シンプルながら立体的な表情も作り上げることができるデザインです。
親子で遊べ、鑑賞して楽しめる。


特別賞:家づくりとの関係性・世の中にないものを発想したことで一等で賞
作品名  ウチヤネ
発表者  イシハラスタイル 石原真
概要  同社の勾配天井から吊るす空間に浮かぶ室内屋根。着想は伊勢神宮の手水舍。
寸評  空間に対するスケール感、のびやかさ、単純さが良かった。
すでに現実の空間で展開をしており効果も実証済み、
他の物件でも実現できるかどうかの検証を進めてもらいたい。


特別賞:テーマとチャレンジのつきつめ方で一等で賞
作品名  ココロ
発表者  創建舎 team心 代表 佐久間美希
概要  硬質フェルトと木を組み合わせてつくる小テーブル、スツール、床座クッションのセット。
3つのアイテムは入れ子になっている。
寸評  サイズ、素材の組み合わせ、仕口などのディテール、どれも丁寧に計画されていている。
親子に向けた優しい視点と、コンパクト収納のテーブルとスツールは
都会の暮らしを考えた設定として評価したい。子供が遊んで喜びそうだ。


特別賞:家具デザイン・プロダクト性で一等で賞
作品名  Felt Cot(フェルト・コット)
発表者  ベガハウス 谷征紀
概要  硬質フェルトの特性を活かした、立体的なゆりかごのような寝椅子。
寸評  硬質フェルトの素材特性を活かした構造アイデアと造形性が独創的で秀逸。
より自由な座り方を受け止められ、屋外のハンモックに代わる
休息具としてブラッシュアップされることに期待。


特別賞:家づくりとの関係性・素材とディテールのつきつめ方が一等で賞
作品名  絵本のブランコ
発表者  三友工務 チーム三友 代表 古閑之博
概要  同社の窓枠等の寸法に合わせてサイズデザインした硬質フェルトのフックに、
ロープを通して台座をセット。読みかけの本を置いたり、絵本を飾ったり。
寸評  今回の提案の中では一番小さなパーツでありながら、素材の特長を引き出し、
住宅ディテールとの接点をうまくデザインに活かしている。
フエルトを引っ掛けパーツとして加工したこと、絵本のブランコという発想が面白い。


佳作
作品名  レルンヨ
発表者  沖田 パワー全開! やる気スイッチーズ! 代表 沖田憲和
概要  親子で遊べる組み立て式ガーデンテント


佳作
作品名  ズロッカー
発表者  大瀧建築 大瀧健太
概要  ランドセルが置ける小さなリビング棚


佳作
作品名  モノクル
発表者  佐保建設 チームさほらぼ 代表 母里吉広
概要  フェルトと木を組み合わせた回転式三段小物入れ


佳作
作品名  股旅スツール
発表者  ウエノイエグループ 代表 上野哲也
概要  フェルトの物入れを組み込んだ木製スツール


佳作
作品名  親子で使う壁飾り収納
発表者  丸晴工務店 濃沼広晴
概要  硬質フェルトに木製ポケット据え付けた壁掛け収納




何を考えるか、どう考えるか、頭の中をデザインする。自己鍛錬と相互鍛錬の競技会。

このデザイン競技会は、各社にとって業務ではありません。賞品も賞金も名声も得られません。しかし、ともて盛り上がりました。第1回に比べて、発表内容は格段にレベルアップしていました。 そして、会員同士が刺激しあっていることがはっきりと目に映りました。股旅社中のメンバーは、向上心と負けず嫌いが表面に現れるタイプのようです。

プロダクトデザインのコンペとは違います。目的は、あくまでもより良い家づくりのためです。対象とするのは世の中にある製品ではなく、 どこにもないもの、まだないものです。
知っているモノを目指すのでなく、誰に何を伝えたいのか、が起点となっているように思えます。そこから何を考えるか、どう考えるか、自 分の頭の中にある家づくりに関係がありそうな何かをデザインすることがこの競技会の意味であり、真摯に取り組んだ各社にとって意義のあ るものになったのではないかと思いました。