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体感・共有・美意識のワークショップ
[沖田・村澤一晃]

 

建主と現場で体感するソファの居心地ワークショップ

広島の股旅ビルダー、沖田がデザイナーの村澤一晃と定期的に行っているワークショップに参加しました。題して、「もりもりワークショップ」。課題の数と内容の密度がテンコもりもり、ということです。
沖田では新人が入社すると、股旅ワークショップの担当となります。股旅ワークショップは、今はまだないもの、今はわからないことの開発・解明ですから、通常の業務と対局的な性格を伴います。通常業務に精通したベテランが担当するよりも、新人スタッフは先入観や慣れに流されにくいという点で道なき道を切り開くプロジェクトの幹事には適任という意図でしょうか。
ということで、現在の担当は今年入社の永野さん。前向き、元気、ひたむきな姿勢でワークショップの進行を務めていました。

まずは、建設中の現場で建主である小原さんご夫妻と、造作ソファのデザイン検証を行います。 座面の高さ、背もたれの高さと角度、クッションの硬さなどを確かめる器材が用意され、この部屋でどんな気持ちで過ごすのかを想像しながら座り心地を体感してソファの仕様を決めていきます。 寄棟の方形屋根を眺めるこだわりのリビングは、小原さんと沖田が思いを寄せて設計した空間です。 現場、原寸、現物の確認は何よりも確かです。 そして、ソファの座り心地や居心地だけでなく、空間と暮らしと家具のあり方を総体的にとらえ、小原さんと沖田との間で住まいの目玉ともいうべきこの部屋のあり方がどうあるべきかの共通認識を深めます。
ソファのデザインと仕様を決めることが、設計全般、施主とのコミュニケーション、沖田という工務店がどんな家づくりをめざすのかにも通じます。ソファのデザインと仕様を決めることにとどまらないワークショップだと感じました。

鉄でつくる 木でつくるオリジナル椅子の開発

造作家具にとどまらず、沖田はオリジナルの脚もの家具づくりにも熱心です。今回のワークショップでは、鉄製と木製と、2種類のオリジナル椅子の試作検証が行われました。

鉄製の椅子は、村澤一晃のデザインで、製作は股旅メーカーの杉山製作所。無垢の鉄棒でフレームをシンプルに構成した3本脚・三角座面のダイニングチェアです。 小ぶりな正方形または円テーブルに4脚をセットしたときに、天板下で座面が干渉しないようにというのが機能的な着眼点であり、 沖田がつくる空間に似合うオリジナルデザインのチェアが欲しいということが開発の動機です。
一次試作を囲み、座ったり触れたり強度を確かめて議論を交わします。改良改善の余地はありますが、ゴールが見えてくる上々の出来です。 この日の検討では座り心地のさらなる向上を目指し、背もたれパーツの模型をその場でつくるなどして2次試作の方針を決めました。

木製の椅子も村澤のデザインで、「贅沢な昼寝椅子」をテーマに暖炉や薪ストーブがある沖田の空間に似合うパーソナルチェアの開発を目指す取り組みです。 製作パートナーは地元広島の木工家、齋藤徹さん。日本の木を使い、ほぞ構造で組み上げたロッキングチェアが持ち込まれ ました。
最初は模型を用意しての打ち合わせで、ロッキング機能に伴う転倒の問題をどう解決するかを検討。その内容を踏まえてのプロトタイプの検証です。 皆でかわるがわる座り、完成度の高さに盛り上がります。こちらもゴールを射程に捉えたと感じます。


最後の拠り所は勘なのか美意識なのか

沖田のワークショップの特徴は、多様なことにチャレンジしていることがあげられます。家具、照明器具、空間づくり、住まいに関するさまざまな備品。 そんなものも、といいたくなるものまで取り上げています。多様で、真面目で、自由。そして、いい意味でしつこい。納得いくまで、地道にジミジミ継続している様子がうかがえます。 さまざまな意見が交わされ、それぞれの意見を簡単には否定せず、建設的に、論理的に、合理的な答えを求めてプロセスを積み上げています。
そして、議論が収斂しそうになると、代表の沖田憲和がワークショップの場をはっとさせる一言を発すときがあります。
「本当にそれでいいの?」、「間違っていないかもしれんけど、それ好きだと思えるか?」と。
議論が、ぐぐっと揺り戻されます。理屈や筋が通っても、それがいいのか悪いのか、根本が問い直されるのです。
ある種の勘のようにも思えるし、言葉や理屈を超える美意識に照らしているようにも思えます。 その感覚を大切にする姿勢は、スタッフにも伝わっているようです。 本当にいいのか、これでいいのか、と問い直す力。そんなパワーを感じたワークショップでした。