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小石製作所は、思考する工作所
[小石製作所・テーブル工房kiki・秋月木工・イシハラスタイル・大瀧建築・股旅デザイン班]

 
股旅社中のツアーイベントとして、「小石製作所・徳島ツアー」が開催されました。参加は任意でしたが、高出席率の人気ツアーとなりました。 設立後、本格的に稼働してから1年に満たない一人メーカーの小石製作所がなぜこんなに人気を集めたのか、ツアーの様子をレポートします。

「思考」と「志向」が導く技術

小石製作所は、それまで木製家具メーカーに勤務してた小石宗右さんが、独立して創業した一人木工メーカーです。家具メーカー時代は、 デザインをして、デザイナーとともにデザイン開発を行い、CADで製作図を作成し、NCルータを操作して木を削り、家具職人として木製家具をつくる仕事に従事。 デザイナーであり、エンジニアであり、職人でもあるという経歴です。
小石製作所は、木工のメーカーですが、何をつくるのか、一言で説明できません。簡単に説明できないくらい、今までになかったタイプの木工メーカーです。
扱う木材は、木っ端。製材所や木工メーカーで、製品に使えず廃棄するか燃料にするしかない木っ端を生かすものづくりを志向しています。 木っ端といっても、厚みのある無垢材です。削れば美しい木目があらわれ、磨けば手に心地良い滑らかな木肌となります。これまで使い途のなかった木材で何をつくるか、 と思考するのが小石製作所なのです。そして、小石製作所が独特なのは、「どうやってつくるか」に思考を巡らせることです。材料のサイズなりに小さな木工品をつくることはすでに世の中で行われている当たり前のこと。 木の食器や器、民芸品や小物、これらの木づくりとは根本的に違うことを目指しているのです。



小石製作所の特徴を箇条書きで挙げるとすれば;
●基準面がなくてもいきなり木っ端から加工できる
●最初の1個目の製作にかかるコストが(かなり)低い
●対称性を持った形でも不定形でも平面でも曲面でも同じ手間でつくる
●(志向として)何でもつくる
といったことになります。
これまでつくったものは、くるまの玩具や花器、家具部品、把手など。それらを木工がわかる人が見ると、小石製作所の特殊性に気づきます。
「どうやってつくったの???」、「そんなものが木でつくれるの???」、「そんな加工を木でやるの???」と驚くのです。一言でいえば、普通じゃないということです。
また、小石製作所の特徴は、デザイン開発を行うための強力な武器だとも言えます。ものづくりのスタートは不確かなことが山積みで、ジグや型など初期投資も必要で、1個目をつくるのが高いハードルとなります。 その点、ジグや型などを極力省くことができ、フリーハンドスケッチからでもイメージを読み取る小石製作所は、1個目をつくり出すことのハードルをぐっと下げるパートナーになってくれます。
1個目ができると、不確かだったことがクリアになり、ゴールがぐっと近づくことが多々あるものです。こうした小石製作所の特殊性を股旅メンバーに最初に知らせたのは、股旅デザイン班の村澤一晃。 不定形に削り出した木の小塊の写真をつけて、「面白い木工メーカーを見つけました」と。
どう面白いかは、なかなか伝えづらいのです。他にない、比べるものがない、これまで知らなかったものづくりだから説明が難しい。 自分に面白いものをつくる考えがないと、小石製作所の特殊な有用性が具体的にならないという面もあります。
股旅工務店たちはさすがに小石製作所が特別なことにすぐ気づき、見学が始まったとたん前のめりになって小石さんの話に聞き入ります。 工作のデモになると、マシンの動作にかぶりつきです。小石さんとの対話が途切れません。



描けるものならきっとつくれる

小石製作所の見学ツアーに先駆けて、股旅工務店のイシハラスタイルと村澤が行なっているワークショップでは、すでに小石製作所をパートナーとしてこれまでなかったモノ開発に取り組んでいました。 開発ネームは「コエダ」。住宅の壁面に棚を取り付けるための小枝型の棚受けです。
イシハラスタイルの目標イメージは、「きれいな壁面にできるだけシンプルに簡易にさりげない棚を後付けできるようにする」ということ。 鉄、ステンレス、ガラスなどを使うさまざまな案を1年以上検討してきた中で、小石製作所と繋がりました。そして、イメージに叶った木製の棚受けの試作を行い、 この日は2次試作の検証を公開ワークショップとしてツアー中に行いました。
検証内容は、フォルムのブラッシュアップ。1次試作から見直した形状と、その強度を確かめます。そして、小石製作所からの提案で棚板を取り付ける機構が備えられました。 木でこんなことができるのかと、参加者一同が木の小さな機構に大注目。ワークショップが盛り上がります。
そしてもう一つ、イシハラスタイルから新しいものづくりテーマが発表されました。どんなものをつくりたいのか。それはなんのためにつくるのか。テーマのオリエンテーションに対し、小石さんが反応します。 コエダでもそうですが、小石さんは言われたものを言われたとおりにつくるのではなく、木工の常識に囚われない考え方で製品づくりに向かいます。
小石さん曰く、「絵に描けるものなら、きっとつくれます」
これは、凄いことだと思います。製作図でなくスケッチやサムネイルがあれば、つまり立体として完結したイメージが描ければ、つくり方から考えて実用性のあるものにしてみせるということです。 手わざや道具の扱いに優れているだけなく、思考が職人技なのです。小石さんに限らず、職人技というのは頭と手が繋がったものです。手先の技能や器用さだけを指すのではありません。 小石さんの場合は、考える職人性が突出している感じです。つねに新しいものづくりに取り組む仕事ぶりは、一邸一邸オリジナル設計で家づくりに取り組む股旅工務店と志向を同じくするところがありそうです。 イシハラスタイルだけでなく、他のメンバーとの協働もこれから始まるのではないでしょうか。



テーブル工房k i k i とA K I +

小石製作所の次に、テーブル工房kikiを見学。オリジナル製品を考えて、デザインして、つくって、販売する。木工製品に関わる人なら誰もが知ってる工房ショップです。 村澤も20年にわたり商品開発に関わっています。一枚板テーブル、椅子、木のベンチ、多彩な木の小物。メンバーたちの興味を引きます。 小石製作所の定番商品、木を削り出した車体でタイヤとシャフトもすべて木でつくったくるまの玩具、「THIS IS VEHICLE」もショップに並んでいました。 ひとしきりショップを楽しんでからは、原板倉庫、木取り場、加工場、塗装場などを順に見学。わずかな時間ではありましたが、テーブル工房kikiのものづくりの現場の様子を垣間見ることができました。
続いて見学に行ったのは、オリジナル家具「AKI+(アキプラス)」を展開する秋月木工。もともと特注家具、箱物家具を得意とするメーカーでしたが、 オリジナルデザインの自社ブランドづくりを開始して、今日までに股旅デザイン班の村澤と中村がデザイン開発に関わっています。 今回は、その縁があって工場を見学させてもらうこととなり、加えて、股旅工務店の大瀧建築と中村がオリジナル家具づくりを秋月木工と進めていたので、こちらでも公開ワークショップが行われました。
残念ながら事務局は秋月木工の見学に同行できなかったのですが、3つの木工所をめぐる「小石製作所・徳島ツアー」は、とても充実したもとなりました。 ものづくりの様子に刺激を受け、それが自分たちの家づくりを向上させていくモチベーションにもなると感じることができた、そんなツアーイベントでした。
股旅社中のツアーイベントにご協力いただいた小石製作所、テーブル工房kiki、秋月木工の皆様に感謝します。