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スタッフの誇りがブランディング
[杉山製作所・村澤一晃]

 
杉山製作所のFactory展開催期間中に行われた公開ワークショップに参加しました。Factory展のテーマは「IRON BAR SUGIYAMA」。鉄家具でくつろげるBAR空間、住宅で味わえるアイアンリビングの雰囲気が提案されていました。 そこに展示された製品は、杉山製作所が股旅デザイン班の村澤一晃と5年間行なってきたワークショップの代表的成果のすべて。今回の展示内容、もう一つの意味は──。


建築と親和する鉄の家具。

杉山製作所がオリジナルデザインの鉄家具メーカーとなることを目指し、村澤とデザインワークショップを開始して5年。その間に生み出した椅子は8脚、かなりの数字だと思います。 商品化された点数が多いだけでなく、杉山製作所の鉄の家具が股旅社中の会員工務店の家に納まる事例も多く見られます。また、一般のインテリアショップや飲食店で製品を見かけることもあります。 住宅空間で使われる家具は木製が圧倒的に主流ですが、そんな中で着実に鉄家具ブランドづくりがなされていることがうかがえます。
この日の公開ワークショップでは、カウンターチェアの試作検証が行われました。現在は、カウンターチェアの開発に力を注いでいるとのこと。 これまで、杉山製作所の椅子が評価されてきた理由のひとつは、鉄家具だけど座り心地がいいということ。そして、住宅建築との相性の良さが認められてきたことが挙げられます。鉄家具は、木の家とも相性がいいのです。
そして、細いフレームで座り心地が良く丈夫な構造である鉄の椅子は、飲食店でも評価を上げています。とくに、細身のフレームで構成されたカウンターチェアは、カフェやバーでの採用をもっと伸ばせそうだという手応えを感じているということでした。
前年のFactory展では、住空間と鉄家具をつなぐものとして敷き込みのカーペット「ウールフローリング」の魅力も同時に伝えていく取り組みを発表していましたが、今回は商業空間への広がりが新たなテーマとなっていました。



「スタッフに誇りを持ってもらいたい」

杉山製作所のデザイン開発を進めてきたのは、工場スタッフと村澤のワークショップの地道な取り組みです。もともと、自動車部品の製造を請け負う工場からの転換だったため、デザイン開発もデザイナーとのワークショップもゼロからの着手でした。それが、1 年、2 年と継続し、ワー クショップの充実ぶりも目に見えて伝わってくるようになりました。テーマの投げかけに対し、スタッフからの返りが回を重ねるたびに良くなっていると村澤も話していました。
そのように着々と進めてきた製品開発の成果を発信していくことに、代表の島田亜由美は積極的です。 住空間やホテル・レストランに関連した見本市への出展をはじめ、新進のものづくりメーカーグループや、地場と自社の活性化をはかる地域プロジェクトにも精力的に参加しています。
海外での展示会も視野に入れています。
「つくる」と「伝える」にこれほど力を注ぎ、鉄家具のブランディングに積極的であることを島田に尋ねてみました。
「たとえば海外で展示会を行う企画は、国内でもっと実績を上げてからという考えもあると思いますが、私たちの鉄家具はヨーロッパや海外の建築とのほうが相性がいいかもしれない、売れるかもしれないと考えているということが一つの理由です。
しかし、それは私自身を納得させる経営や事業の理であって、本音というか私の一番の思いはスタッフに誇りを持ってもらいたいということです」と、島田はきっぱりと話してくれました。
これこそ杉山製作所のブランディグの鍵ではないでしょうか。スタッフの皆さんの誇りを原動力にして、鉄家具が住まいに、商業空間に、世界に広がっていくことを期待します。