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鉄脚テーブルキッチン、実物件に設置。
[ イシハラスタイル・杉山製作所 ]

 
股旅マンスリー043で紹介した、杉山製作所とイシハラスタイルが共同で開発に取り組んでいる鉄脚のテーブルキッチン。今年秋の発売に先駆けて、イシハラスタイルで建築中の物件に設置されました。今回は、その現場でのワークショップの様子をご紹介します。


これまでになかったキッチン、空間を体感。

アイランドキッチンとダイニングテーブルを一つにしたテーブルキッチン「アンフォルム」が、現場に設置されました。鉄脚のフレームにオーク無垢の幅はぎ天板。キッチンとしての作業のしやすさに考慮しながら、一般的なダイングテーブルと同じ、高さ700mmのテーブルキッチンは、アイランドキッチンにテーブルを近接させたプランと明らかに違います。家族が集ったり、食事をしたり、お茶を飲みながらくつろぐのにふさわしい、まさに木のテーブル。テーブルですが、機能性をしっかりと備えたキッチンでもあります。
キッチンはあるのですが、キッチンという作業空間がない、と感じました。四角い箱のキッチンユニットがなく、キッチン然としたしつらえがないのです。

スペースの活用の面からも住み心地の面からも、LDK発想から脱却することはかねてからあちこちで唱えられてきましたが、多くはキッチンとダイニングとリビングの仕切りをなくすことをその答えとしていたと思います。しかし、この家のこの空間は、キッチンでもダイニングでもリビングでもなく、キッチンテーブルを中心に据えた新しい空間なのだと実感しました。
LDKからの進化でなく、囲炉裏のある居間の進化形といったほうがふさわしいかもしれません。竈門と流しの機能を持った囲炉裏を囲む家族の空間。そんなイメージが思い浮かびました。
「アンフォルム」は、大筋ではすでに完成していると思います。この日、設置された「アンフォルム」の下に潜り込んで、イシハラスタイル、杉山製作所、デザイナーの村澤一晃の面々が改良の検証をしたのは、配線の取り回しや設置のしやすさです。イシハラスタイルでなくても、住宅づくりに関わる人なら誰でも容易に設置できる製品にすべく最後の詰めが行われました。


意思の構築から生まれたデザイン。

身贔屓な言い方になりますが、このテーブルキッチンは画期的だと思います。イシハラスタイルにしても、杉山製作所にしても、従来のキッチンを土台にして取り組んだ開発ではなく、その一歩も二歩も手前からキッチンのあり方や役割を見直したことで、この製品にたどり着いたのではないでしょうか。
イシハラスタイルは、大きすぎず小さすぎない、過不足のないちょうど良い住まいのあり方を探求する一環で「アンフォルム」の発想に至ったようです。
杉山製作所は、食にまつわる家族の集い方のあるべき姿を模索しつつ、鉄家具の可能性を広げ、新しい価値を生み出すことを考え続ける中で、このテーブルキッチンの製品化に着手しました。
それぞれの思いを具体的にどうするか思考を重ね、両者の意思をつなぎ合わせて構築したのがこのデザインだと思います。デザインとは形や機能性のことではなく、どのような思いをどのように具現化するか、意志の構築の産物にほかなりません。その結果、「アンフォルム」が置かれたところには、新しい住まいと新しい暮らしが生まれる。それを実感したからこそ、画期的と感じたのだと思います。

できあがってしまえば、説明はできます。このテーブルキッチンは、住宅の間取りのあり方を変えます。鉄脚・鉄フレームだからこそ、キッチンが箱物の設備でなく足もとがすっきりとした美しい家具になりました。見てしまえば、形やつくりは真似できるかもしれません。しかし、実際には容易に真似できないと思います。実物件で採用したり製品として世に送り出していくには、「アンフォルム」が何をめざしているのか、その思いと意志がなければ生かすことはできないのではないでしょうか。


新しい価値をどう伝えていくか。

「アンフォルム」は画期的だと思ったことと同時に、需要は未知だということも客観的な見方だろうとも思いました。高さ700mmでオイルフィニッシュの木製天板をそなえるキッチンを求めている人。従来のキッチン空間がない住まいを求めている人。そういう人たちがいるかどうか。前例がないのだから、需要が未知なのは承知で取り組んだプロジェクトだと思います。
また、キッチンと食卓を合体させたくないという人も確かにいるだろうということは、開発過程でも話し合われてきたことです。現にイシハラスタイルでは、独自に開発した「タフなキッチン®」を備える家もつくり続けていくし、杉山製作所は鉄のキッチンアイテムを多様にラインアップする中に「アンフォルム」が加わることになります。

ダイングテーブルとキッチンを一体にしたこの製品は、1+1=2以上の価値を備えていると思います。このテーブルキッチンに共感してくれる人が必ずいると信じて、完成後は「アンフォルム」の価値を伝えていくことがテーマになるでしょう。「アンフォルム」がどんな住まいを生み出すのか、どんな暮らし方を生み出すのか。その広がりに期待します。