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ワークショップの自律性
[ さほらぼ・村澤一晃 ]

 
岡山のさほらぼが、デザイナーの村澤一晃と定期的に行なっているワークショップ。今回は、隣県のウエノイエ(鳥取・米子市)と國本建築堂(広島・尾道市)も参加、その様子を取材してきました。


デザインと性能、住宅品質の底上げを実感。

今回のワークショップでは、建築中の3つの現場を見学。さほらぼの担当者が、それぞれの住宅について概要を紹介し、つくりや仕上げについて質問や意見をフリーで交わします。家に触れながらの現場でのディスカッションは、やりとりの濃さが違います。

ゲストであるウエノイエと國本建築堂に対して、やっていることを説明するのは、切磋琢磨する仲間へのプレゼンテーションであり、自分たちの家づくりを改めて振り返る良い機会になっているのだと思います。第三者に対して言語化することで、実務の流れの中で慣れやなんとなくやってしまっている小さな問題を再認識することがあると思います。ゲストのために見学会を行なっているのでなく、自分たちの家づくりを検証するためのワークショップであることの緊張感が感じられます。

さほらぼには土木部があり、庭づくりまで自社で行うことを強みとしながら、岡山らしさや地域の面影を残す家づくりを信条として、素直なプランの上質な家づくりを行っています。地元の津山・勝央の新築戸建住宅は、6割が建売分譲ということですから注文住宅はレベルの高さが厳しく問われると思います。そんな中でワークショップの成果は、内外装のデザインや温熱性をはじめとする住宅性能の底上げに貢献しているようです。

現場で発想する、現場で解決策を見つける。

2件目の現場で、さほらぼスタッフからダイニングテーブルについて検討事項が提示されました。プランでは、四角いテーブルをアイランドキッチンに接して設置して5人掛けとしていましたが、お客様がφ1250の円形テーブルを見つけて気に入っているということです。現場にφ1250の丸い型紙を置いてみると、スペース的に置けないこともない。加えて、円形テーブルは四角い空間のアクセントにもなりそうでいい感じもします。
しかし、村澤の指摘は、お客様が気に入ったテーブルは天板のサイズとしては5人ないし6人が食事できるが、4本脚であるために椅子を5脚セットしづらい難点があること。そして、壁との間の動線がやはり狭すぎということでした。そこで、村澤が提案したのはだ円のテーブルです。

四角か丸かの二者択一ではないことへの気づき。テーブルは四角と丸だけではないことは誰でも知っていることですが、ものごとの流れの中ではこうした気づきが得られないこともあるものです。後日、さほらぼは、お客様と現場でφ1250の型紙を囲んでテーブルの打ち合わせを行い、今回のワークショップの検証結果を説明し、だ円テーブルを採用することに決まったとのこと。お客様も納得されたそうです。
机上の検討だけでは残ってしまったかもしれない問題点を、現場での検証で解決策を見出すことができ、だ円テーブルを採用することで空間プランの幅が広がったと、さほらぼのスタッフは話してくれました。


デベストデザイン賞「岡もち」の意味と意義。

ワークショップの後半は、先に行われた股旅社中デザイン競技会で発表した作品のブラッシュアップ検討会です。さほらぼは「岡もち」を発表。現物の製作を会員メーカーの松井木工と共同で行い、ベストデザイン賞を獲得しました。「岡もち」とは、キッチンでパンを焼いて、それを庭や縁側に運んで休日の朝食を家族で楽しむための岡持ちのことです。
工務店がなぜ岡持ちを、と思うかもしれませんが、前段で書いたようにさほらぼは庭づくりを得意とする工務店です。内と外が気持ち良くつながった住まいでの暮らしを豊かにする、これは建築に寄り添った道具です。只運ぶだけならお盆でもトレーでも事足りますが、わが家を楽しむコトのデザインに取り組んだことが、受賞という結果につながったのだと思います。

建築のデザインと性能の底上げを常に考えながら、こうした小さな道具にまで発想を広げること。それは、ワークショップ活動が工務店の仕事として自律的に行われることで生み出される成果だと思います。建売分譲住宅とは一味も二味も違う、さほらぼならではの「素直な家」がさらに進化していくことを期待します。